看護師卒一症例発表のご案内
看護師として新たな一歩を踏み出した「卒一看護師」が経験する行事の一つに、「症例発表会」があります。この発表会は、新人看護師が1年間を通して学んだことや患者さんとの関わりを振り返り、看護のプロセスや成果を他の医療スタッフに発表する機会です。症例発表会は、ただ単に学びを発表する場ではなく、看護師としての自信と成長を支える重要なステップとなります。
本記事では、具体的な発表内容を紹介するとともに、卒一看護師にとっての症例発表会の意義や、得られるメリットについて解説します。
1.症例発表会とは?
症例発表会は、新人看護師が1年の集大成として、自身が担当した患者さんのケースを選び、看護の実践を通して得た学びや気づきをまとめて発表する場です。
症例を選ぶ際には、患者さんの状態や経過が学びに繋がる内容であること、また自身が悩みや困難を乗り越えたエピソードを含んでいることが求められます。
発表の中で、新人看護師は患者さんの情報収集からケアの展開、そしてその結果や反省点までを一貫して述べ、他の看護師や医療スタッフからフィードバックをもらいます。
2.卒一看護師にとっての意義
卒一看護師にとって、症例発表会は一つの節目であり、看護師としての成長を実感できる重要な機会です。1年間の看護経験を振り返ることで、自分がどのように学び、成長してきたかを確認する場となります。
また、同期や先輩看護師からのフィードバックを受けることで、自分では気づかなかった改善点や新たな視点が得られ、今後の看護に活かすことができます。
特に、以下のような意義が考えられます。
振り返りによる成長実感
1年間の経験を見つめ直し、自身の看護スキルの向上を実感することで、自信を深めることができます。
課題の発見
自己分析を通じて、今後の課題やスキルアップの方向性が見えるようになります。
他のスタッフとの共有
症例発表会を通して、他の看護師や医療スタッフと知見を共有し、意見を交換する機会が生まれます。
3.当院看護師の発表内容紹介
- 訪問看護介入拒否の事例から学んだこと(訪問看護 Mさん)
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新人看護師Mさんが訪問看護で経験した事例です。A氏(60代男性、要介護4)は、過去の入院経験から医療への不信感を持ち、蜂窩織炎が悪化しても入院を拒否し、自宅での看護を希望していました。訪問看護師が毎日訪問し、自宅での処置が継続されました。
信頼関係の構築
訪問当初、Mさんは時間内に処置を終えることで精一杯で、A氏との対話も限られていました。しかし、余裕ができてからA氏に入院を拒む理由を聞くと、彼が病院での経験から医療への不信感を抱いていることを理解できるようになります。さらに、故郷の話や人生経験を聞く中で、A氏の「偏屈」と思われた面が「自分の考えを持つ面白い人」として捉えられるようになり、A氏も協力的になりました。
学びと実践
A氏に寄り添い、信頼関係を築くことで、訪問看護がスムーズになり、彼の自宅療養が改善。Mさんは、在宅での生活を支えるために、患者の背景や考えを理解し、適切な距離感で寄り添う姿勢の重要性を学びました。
まとめ
この経験を通じて、Mさんは、在宅医療の限界と生活支援の調和が大切であることを実感。患者の意向を尊重し、信頼関係を築くことが、寄り添う看護の基盤となると学びました。
- 患者との最期の関わりから学んだこと(3階東病棟 Kさん)
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はじめに
Kさんは、看護補助業務の中で出会ったAさんとの最期の関わりを通して、看護師としての在り方について学んだことを振り返ります。
患者さんの状況
Aさんは80代女性で、複数の疾患により絶食・中心静脈栄養管理、褥瘡やスキンテアなどの重い症状を抱え、全介助が必要でした。生活保護を受け、家族とも絶縁状態で独居しており、唯一の連絡先は姪御さんでした。
学びの場面
新人研修後、病棟勤務が始まったKさんは、看護のやりがいや温かさをAさんとの関わりから感じていました。しかし、Aさんの病状が悪化し、拒絶が強くなるにつれて、Kさんは戸惑い、Aさんとの関係をうまく築けなくなります。カンファレンスでもAさんの生活背景や支援の難しさが話し合われましたが、KさんはAさんの辛さや孤独に気づきながらも、うまく声をかけられないままAさんの最期を迎えました。
考察とまとめ
Kさんは、自分の目線が患者さん中心でなかったことを反省し、「患者さんの立場に立つ」という看護の視点を痛感しました。日々変化する患者の心身の状態を丁寧に観察し、気持ちに寄り添う姿勢が大切だと学びます。
おわりに
Kさんは、今後「あの時こうしていればよかった」と後悔しない看護を目指し、患者さんとの関わりを大切にしていきたいと強く決意します。支えとなったAさんと指導をくれた先輩方に感謝を述べ、結びとしています。
- 尊厳を守る看護(Iさん)
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はじめに
「尊厳を守る」ことは、患者の意思や人格を尊重し、その人らしい生活を支えることと考えています。Iさんは、A氏との関わりから患者の尊厳を守る難しさや重要性について学び、振り返りを行いました。
患者さん紹介
A氏(80代男性)は脳梗塞と左脛骨高原骨折により入院中で、細菌性肺炎や腰椎圧迫骨折などの既往歴もあります。ADL(活動能力)は脳梗塞発症後に低下し、特に排泄面で介助が必要な状況となりました。
学びを得た場面
排泄介助について、Iさんは当初A氏に安全のためオムツを勧めましたが、A氏は強く抵抗しました。Iさんは「オムツ」ではなく「パンツ」という言葉を使うなど表現を工夫し、本人の意思をできる限り尊重することで、納得してもらえることを実感しました。こうした工夫が、患者の思いに寄り添うための大切な手段であることを学びました。
考察
Iさんは、忙しい医療現場では看護師側の考えが優先されがちであるものの、患者ごとに異なる価値観やこだわりに配慮しながら関わることが重要であると考えています。患者の意思を尊重する姿勢が、より良い関係性を築くうえでの基盤となりうることを感じました。
まとめ
患者の尊厳を守り、その人らしい生活を支援するためには、個別の価値観や希望に寄り添うことが欠かせないと学びました。医療現場の忙しさの中でも、この姿勢を忘れずに看護を行っていきたいと考えています。
おわりに
Iさんは先輩や患者から得た学びを今後に活かし、患者に寄り添う看護を目指しながら、自身の成長に努めていくことを誓っています。
4.おわりに
症例発表会で得た学びやフィードバックは、今後の看護師人生において大きな財産となります。発表後は、フィードバックを基に自分の課題を洗い出し、改善に向けた具体的な目標を立てましょう。
また、発表で得た自信や経験を活かして、新しいスキルや知識にチャレンジする意欲を持ち続けることが重要です。
1年間の集大成としての発表会を、単なる「通過点」にするのではなく、自己成長の「起点」として捉えることで、看護師としてのキャリアがさらに充実したものになるでしょう。