新人看護師の「リアルな声」に寄り添う。尼崎医療生協病院が築く、安心して成長できる職場環境とは

看護師としてのキャリアが始まる、最初の一年。それは、学生時代に抱いた理想を胸に、希望と情熱に満ちた特別な時間です。しかし同時に、教科書の中の知識と、目の前で展開される生命の現場とのギャップに戸惑い、これまでにないほどのプレッシャーや不安を感じる時期でもあります。
この大切な一年間を、新人看護師たちはどのような想いで過ごしているのでしょうか?全日本民主医療機関連合会(民医連)が全国の卒後1年目看護職員300名以上を対象に実施したアンケート調査は、その「リアルな声」を浮き彫りにしています。
このコラムでは、その貴重なアンケート結果を紐解きながら、新人看護師が本当に求めているものは何かを深く考察します。そして、その声に真摯に耳を傾け、尼崎医療生協病院がどのようにして「安心して成長できる職場環境」を具体的に築き上げているのか、私たちの取り組みをご紹介します。
1. 看護師1年目の全国調査が示す、希望と不安のリアル
新人看護師が職場に何を求め、何に喜び、何に傷ついているのか。全国の仲間たちの声は、驚くほど共通した想いを映し出していました。
就職先を決めた最大の理由、それは「雰囲気」
アンケートで「今の就職先に決めた理由」を尋ねたところ、最も多かった回答は「病院等の雰囲気」(149票)でした 。これは「給与」(50票)や「希望の診療科」(9票)といった条件を大きく上回り、新人看護師がいかに働く場所の「空気感」や人間関係を重視しているかを示しています。
しかし、この「雰囲気」という要素は、非常に繊細で壊れやすいものでもあります。多くの新人がこの「雰囲気」に惹かれて入職する一方で、日々の小さな出来事がその雰囲気を損ない、働く意欲を奪ってしまう現実もまた、アンケートから見えてきました。つまり、良い雰囲気とは、ただ存在するものではなく、病院全体で意識的に育み、守り続ける努力があって初めて成り立つものなのです。この点にこそ、新人看護師を本当に大切にする職場の本質が隠されています。

新人看護師のやる気を育む「言葉」と「行動」
では、具体的にどのような経験が新人看護師の成長を後押しするのでしょうか。アンケートには、心に響いた数々の言葉や出来事が寄せられています。
- 成長の承認と肯定的なフィードバック
- 「頑張ってるね」「できてるよ」「日々成長したね」といった、自分の努力や小さな進歩を認めてくれる言葉。
- できていない部分だけでなく、できている良い点にも光を当てて伝えてもらえること。
- 協調的な問題解決とサポート
- うまくいかなかった時に、一方的に責めるのではなく、「解決策を一緒に考えてくれた」という寄り添う姿勢。
- プリセプターの先輩が、技術指導だけでなく日々のメンタル面まで気にかけてサポートしてくれたこと。
- 心理的な安全性の確保
- 「1年生は、わからなくて当たり前。だからわからないことは何でも聞いて」という、質問しやすい環境を作る言葉。
- 「自分のペースでゆっくり成長していこう」という、個々の成長速度を尊重する姿勢。
- 信頼と責任による成長実感
- 重症患者の受け持ちや重要な検査などを任せてもらえるようになり、チームの一員として信頼されていると感じられた経験。
- 患者さんや先輩から直接かけられる「ありがとう」という感謝の言葉。

これらの声から浮かび上がるのは、新人看護師が求めているのは、単なる技術指導だけではないということです。自分の存在が認められ、チームの一員として尊重され、失敗を恐れずに挑戦できる「心理的安全性」が確保された環境こそが、彼らの成長の土壌となるのです。
やる気を奪い、心を傷つける「言葉」と「環境」
その一方で、アンケートには心を傷つけ、やる気を失わせた辛い経験も数多く綴られていました 。これらの声は、私たち医療現場が真摯に受け止めなければならない課題を突きつけています。
- 人格を否定するような叱責
- 「そんなのもわからないの?」「前にも教えたよね」「少しは頭を使って動いて」といった、無知や失敗を責め立てる言葉。
- 指導の一貫性の欠如
- 「先輩ナースによって言うことが食い違い、どちらの指示に従っても指摘されてしまう」という混乱した状況。
- 背景を無視した一方的な注意
- 「理由や経緯を聞かれずにきつい言い方をされる」ことや、「丁寧に仕事をしていたら、時間をかけすぎと怒られた」など、本人の意図を汲み取ってもらえない経験。
- 公の場での尊厳の侵害
- 「患者さんの前で注意される」ことや、「失敗した際に、陰でこそこそ噂される」といった、プロとしての尊厳を傷つける行為。

これらのネガティブな経験は、単なる「厳しい指導」とは全く異なります。それは、新人看護師から学ぶ意欲を奪い、質問することへの恐怖心を植え付け、成長の芽を摘んでしまう行為です。特に「先輩によって指導が違う」という問題は、新人を混乱させるだけでなく、指導する側の体制そのものに課題があることを示唆しています。
悩んだ時、本当に頼れるのは誰か?
では、こうした困難に直面した時、新人看護師は誰に相談しているのでしょうか。アンケートで「悩んだ時に相談する相手」を尋ねた結果は、非常に示唆に富んでいます 。
- 同期の看護師 (194票)
- 家族 (186票)
- 友人 (157票)
- 先輩 (110票)
- 上司・指導者 (74票)
最も多かった相談相手は、同じスタートラインに立ち、同じ痛みを分かち合える「同期」でした。これは、同期という存在がいかにかけがえのない支えであるかを物語っています。しかし、この結果を別の角度から見ると、本来、指導・教育の責任を担うべき「先輩」や「上司・指導者」が、新人にとって最も相談しやすい相手になっていない、という現実も見えてきます。公式なサポートラインが十分に機能せず、ピアサポート(仲間同士の支え)に大きく依存している構造は、組織としてのサポート体制に改善の余地があることを示唆しているのです。
2. 私たちの答え:「心あたたかい看護」を支える具体的な仕組み
全国の新人看護師が抱える悩みや願い。その「リアルな声」に対し、尼崎医療生協病院は、理念に基づいた具体的な「仕組み」と「文化」で応えます。私たちは、精神論だけで「頑張れ」とは言いません。一人ひとりが安心してプロフェッショナルとしての一歩を踏み出せるよう、考え抜かれたサポートシステムを用意しています。
私たちの土台:「雰囲気」を創り出す理念の実践
新人看護師が最も重視する「病院の雰囲気」 。その源泉は、私たちの看護部が掲げる「心あたたかい看護をめざします」という理念にあります。これは単なるスローガンではありません。病院全体で「いのちの平等」を掲げ、経済的な理由で医療に差があってはならないという強い信念に基づき、例えば差額ベッド料をいただかないといった具体的な方針として実践されています。
この「誰もが見捨てられない医療」という確固たる理念が、職員一人ひとりの行動規範となり、患者さんだけでなく、共に働く仲間へも思いやりを持って接する文化を育んでいます。私たちが目指す「良い雰囲気」とは、この理念から自然に生まれてくるものなのです。

あなたを支える「二本柱」:技術指導と精神的サポートの分業体制
「先輩によって指導が違う」「質問しづらい」。アンケートで多く聞かれたこの悩みは、多くの場合、一人のプリセプター(指導役の先輩)に技術指導と精神的サポートという二つの重責が課せられることで生じます。
そこで当院では、この役割を明確に分離する「二本柱」体制を導入しています。
- 技術指導は「教育担当チーム」が一貫して担当:
採血や注射、急変時対応といった専門的な技術は、経験豊富な教育担当チームが、標準化された手順で責任を持って指導します。これにより、「人によって言うことが違う」という混乱を防ぎ、誰もが質の高い技術を確実に習得できます。 - 「プリセプター」は、あなたの心のサポーターに専念:
技術指導の負担から解放されたプリセプターは、新人看護師(プリセプティ)の一番身近な相談相手として、精神的なサポートに専念します。仕事の悩みはもちろん、プライベートな相談まで、何でも話せる「一番の味方」として、あなたの心に寄り添います。

この分業体制は、従来のプリセプター制度が抱えていた構造的な問題を解決するための、私たちの具体的な「答え」です。これにより、新人は安心して質問し、着実に技術を学び、プリセプターは温かい心で後輩の成長を見守ることができるのです。
かけがえのない繋がりを育む:同期との時間を仕組み化
アンケートが示した通り、新人看護師にとって「同期」は最大の心の支えです。私たちは、このかけがえのない繋がりを偶然に任せるのではなく、病院の仕組みとして大切に育んでいます。
その中心となるのが、年間計画に基づいて毎月1回開催される「集合研修」です。この研修は、知識や技術を学ぶだけの場ではありません。各部署に配属された同期全員が顔を合わせ、近況を報告し、悩みを共有し、互いの頑張りを称え合う貴重な時間です。この定期的な交流が、孤独感を和らげ、一年間を共に乗り越えるための強い連帯感を生み出します。

安全な環境で自信を育む:「多重課題シミュレーション研修」
「患者さんの前で失敗するのが怖い」「もっと実践的な練習を積みたい」。こうした不安に応えるため、当院では「多重課題シミュレーション研修」を導入しています。
この研修では、リアルな病室を模した環境で、複数の患者さん(2年目の先輩看護師が演じます)から同時にナースコールが鳴ったり、ケアを求められたりする状況を体験します。限られた時間の中で、どの患者さんへの対応を優先すべきか、誰かに応援を頼むべきか、といった判断力と実践的な対応スキルを、安全な環境でトレーニングすることができます。
このシミュレーションの目的は、単に技術を上達させることだけではありません。アンケートで多く見られた「人前で怒鳴られる」「患者の前で注意される」といった、心を傷つける経験を現場でさせないための、いわば「ワクチンのような研修」です。失敗を恐れずに挑戦し、客観的なフィードバックを通じて学ぶことで、新人看護師は実際の臨床現場に立つための確かな自信と、プレッシャーの中で冷静に思考する力を身につけていきます。

新人看護師の「リアルな声」 (全国民医連アンケートより) | 尼崎医療生協病院の「答え」 |
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「先輩によって言うことが違い、混乱する…」 「まだ知らないことを厳しく責められるのが怖い…」 |
一貫した技術指導と、温かい精神的サポートを両立する「二本柱」体制。 技術は専門の「教育担当チーム」が統一して指導。あなたの「プリセプター」は、何でも話せる一番の味方として、心のサポートに専念します。 |
「一番の相談相手は、やっぱり同期」 「同期と話す時間があると、ホッとする」 |
大切な同期との繋がりを、病院が仕組みとして育みます。 毎月1回、同期全員が集まる集合研修を実施。学び合うだけでなく、悩みを共有し、励まし合える「仲間づくりの時間」を意図的に設けています。 |
「患者さんの前で失敗するのが怖い…」 「もっと実践的な練習を積んでから現場に立ちたい」 |
リアルな現場を想定した「多重課題シミュレーション研修」で、自信を育む。 安全な環境で、複数の患者さんへの対応や優先順位付けをトレーニング。失敗を恐れずに挑戦し、確かな実践力を身につけられます。 |
「良い雰囲気の職場で働きたい」 「『頑張ってるね』の一言が嬉しい」 |
「心あたたかい看護」という理念が、職場全体の文化を創ります。 職員一人ひとりが、お互いの成長を認め、支え合う文化(チーム医療の中で互いの成長を応援します)が根付いています。あなたの成長を、チーム全員で見守ります。 |
3. あなたの成長の旅に伴走する:1年目の先にあるキャリアパス
尼崎医療生協病院のサポートは、新人時代だけで終わりません。私たちは、看護師一人ひとりが専門職として長く輝き続けられるよう、長期的な視点でキャリア形成を支援します。
卒後2年目、3年目にも継続的な研修が用意されており、着実にステップアップできる道筋が示されています。さらに、中堅看護師としての役割を担う時期には、リーダーシップ研修や病院内外での専門研修への参加も奨励されます。

また、より高度な専門性を追求したいと考える看護師のために、認定看護師などの資格取得を支援する特別奨学金制度も整っています。私たちの看護部基本方針の一つに「チーム医療の中で互いの成長を応援します」という言葉があります。これは、個人のキャリアアップがチーム全体の力となり、最終的には患者さんへのより質の高いケアに繋がるという考えに基づいています。あなたの「やりたい看護」を、私たちは組織全体で応援します。
4. あなたの声が、私たちの未来を創る
ここまで、全国の新人看護師の「リアルな声」と、それに対する尼崎医療生協病院の具体的な取り組みをご紹介してきました。私たちが目指しているのは、新人看護師に一方的に「頑張れ」と求めるのではなく、安心して成長できる環境を「病院側が責任を持って提供する」ことです。
アンケートで多くの人が求めた温かい「雰囲気」とは、私たちの理念と、それを実現するための具体的な仕組みが織りなすことで生まれる文化そのものです。ここでは、わからないことを「わからない」と正直に言える安全な場所があります。失敗から学び、再挑戦することを応援してくれる仲間がいます。そして、あなたの小さな成長を、自分のことのように喜んでくれる先輩たちがいます。

この記事を読んで、私たちの理念や取り組みに少しでも共感していただけたなら、ぜひ一度、その雰囲気を肌で感じに来てください。病院見学や説明会で、この場所で実際に成長の物語を紡いでいる先輩看護師たちと話してみませんか。
あなたとお会いできる日を、心から楽しみにしています。